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予算の交通整理

非合理的な判断を排除する合理的なメカニズムが欠落している場合、「予算」にはいろいろな無駄が含まれるのですよ。 一般家庭における生活費でも、国家の運営費でも。

日経新聞 より
14年度予算、概算要求総額99兆円 優先枠要望は3.5兆円に
  2014年度予算の概算要求は30日、事実上の締め切りを迎える。一般会計の各省庁の要求総額は99.2兆円と過去最大に膨らむ。既存の経費に上乗せして予算を要望できる「優先課題推進枠」には計3.5兆円が集まる。政府は予算の赤字幅を縮める収支改善を国際公約しており、年末にかけての予算編成過程では歳出をどう抑えるかが課題となる。

ましてや、強力な官僚主義システムが支配する欧州では、各国の様々な政治的思惑が「非合理的」な予算を正当化してしまうのです。



The EU budget is a disaster that cannot save Greece
EUの予算はギリシャを救う事ができない災害である


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A Portuguese motorway – expensive and empty

スペイン又はポルトガルの高速道路を走行した事がありますか?。 それはM25と全く異なり、車が少なく、その間隔も大きいという事に気付くでしょう(ジブラルタル周辺の非常に混雑している部分は含みません)。

幾つかの推計によると、ポルトガルにおけるEUの所謂(いわゆる)地域資金の25パーセントは道路に投資されてきており、ドイツよりも60パーセント多く、英国の4倍である、住民一人当たりの高速道路のキロメートルを持つ国のとんでもない状況に大きく貢献しているのです(H/T FT)。 その一方、スペインにおけるEUの構造的資金の約3分の1はインフラに投資されてきたのであり、既に深刻な建設バブルを更に膨張させており、他方では、ポルトガル国内の様に、大量のゴースト道路、空港そして港湾を創り出しているのです。 EU自身の監査人達は、最近の調査の中で観察したプロジェクトの74パーセントは予想したよりも少ない交通量を記録したと指摘し、道路へのEUの投資を糾弾したのです。

EU予算の愚考へようこそ。 この経済的な異常は、最善の場合でもユーロ圏危機と無関係なだけであり、- 最悪の場合には、あからさまにダメ―ジを与えているのです。

ギリシャを考えてみて下さい。 先週、ギリシャへの3度目の救済に用いられるEU予算の話がありました。 これが如何に機能するか - 又は、この推測が如何に信頼できるか - という事は完全に明らかでないものの、協調資金として知られるEUの基金を解除すべくギリシャ政府が供出する必要のある自らの現金の量を減らす一つの方法になるかもしれません。 状況に応じ、これは通常、総割り当て額の25%から60%の範囲内になります。 現在ギリシャは、僅か5パーセントのみを供出するという特別な許可を得ている状態にあり、同国はこれを2014年から2020年まで執行される次のEU予算期間中へ拡張したいと願っているのです。

新たな、厳しい救済条件から出てくる訳では無い一方、それは既に合意された(ドイツの納税者達を納得させる事が容易な)現金の割り当てから引き出す事になるので、これは政治的により容易なのです。 しかし、その様な取り決めは又、ギリシャを救う為に絶対的に何もしない事となるのです:
  • 最も基本的な事として、記録を簡単に眺めれば、過去20年間にギリシャは€640億以上の構造的資金を割り当てられてきた事が示されています(その資金に対し、英国は約12%貢献しました)。 人口一人当たりで見ると、これはEUの中で最高であり、尚も同国は依然として破綻し、競争力のない状態なのです。
  • 従って、それはギリシャにとって間違った類の資金供給だという事になるのです。 それは、例えば、ギリシャにおける財政不足が最も深刻である/あった、医療費、教育又は銀行の資本増強に使う事ができないのです。 しかし、それは道路に使用する事が可能なのです。
  • 一般的には構造資金と同様に、それは、それが最大の影響を与え得るものから遥かに縁遠い限定された公的投資へと分岐させる事で、機会費用を生むリスクがあるのです。
  • 協調資金の割合を減らす事は、要求を満たす現金を供出する余裕がギリシャに無い - 実際の財政負担となる構造的資金から私達を遠ざける事になるのです(構造的資金は、奇妙にも循環的なのです)。 しかし、そのトレードオフは、それがマネーに付帯する如何なる形の条件も排除する事なのです。 これは本当に望ましい方法でしょうか?。
  • 実際のマネーへと向かう事は、官僚的な悪夢であり、- 正(まさ)しくギリシャが必要としていないものなのです。


これは又、徹底的な改革の絶望的な必要性の中にあって、何故(ほぼ)全てのEU予算が全く進行中の災害であるかという理由なのです。



英国では、Mxxという形で最上位グレードの高速道路に番号が割り振られているのです。 ロンドン中心部から放射状にM3やM4という高速道路が地方都市へ伸びているのですが、M25というのはロンドン市やヒースロー空港等の周囲を巡る環状の高速道路なのです。 広い場所では片側5車線もの幅を持っているのですが、常に交通量が多いのです。 (それでも、首都高速道路の渋滞に比べれば全ての車両がスムーズに流れていますけど。)



用途が限定され、所謂「ひも付き」と呼ばれる予算は、我が国においても様々な助成金等に付与されています。 このような予算は執行する事に意味があり、その効果については誰も責任を問われないのです。

このような場合、予算の立案/執行における責任の所在は常に曖昧にされているのですが、それを追求しようともしない大手メディアの姿勢だけでなく、自分達の税金の使途に関心を持たぬ納税者の意識にも問題があるのでしょう。


次回に続く...



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特別警報は誰が発する?

激しい気象変化による災害が増える中、「経験した事の無いような」気象が予測される場合に緊急性/重大性を十分に伝えるべく、気象庁の警報体系が変更されました。

Yomiuri Online より
気象庁「特別警報」開始…甚大被害予想時に発表
  気象庁は、甚大な被害が予想される気象現象について警戒を呼びかける「特別警報」の運用を、30日午前0時から開始する。

 対象となるのは大雨、火山の噴火、津波など計9種類で、警報発表後は市区町村も住民に対して注意喚起を行うことが義務化される。

勿論、気象庁の管轄範囲は気象的現象に留まるので、想定するのも自然災害に限られるのです。

金融/経済における「経験した事の無いような」大災害が予想される場合、人々に警報を発してくれるのは誰なのでしょうか?。



“Crash Alert” Flag Still Flying
「暴落警報」の旗は依然として翻っている


「暴落警報」の旗は依然として翻っている

我々は先週[暴落警報」を掲げた。 これまでのところ、ダウにおいて48ポイント上昇し、米国株式市場は水曜日に少し戻った。 ゴールドは横ばいだった。 その旗は予測で無い。 それは単なる警告であり、- 危険に荒れた海を警告するビーチの旗の様なものである。 でも、気を付けろ。 お前達は海に洗い流されてしまうかもしれない。 シリア?。 先細り?。 債務上限議論の復帰?。 貧血状態にある実体経済の成長?。 マイナス収益予想報告の多さ?。 上昇する米国債利回り?。 新興国市場のパニック?。

そして此処に、中央銀行は全ての危険から投資家達を保護する意思が無いかもしれないというフィナンシャル・タイムズの警告がある。

世界は際限の無いバブル、金融危機そして通貨の崩壊という暗い運命を待っている。 それに慣れよう。 少なくとも、それは - ワイオミング州ジャクソン・ホールでのカンザスシティ連銀の年次総会の為に自らのぐらつく権威の下で集まった - 世界中の中央銀行家達が期待しているものである様だ。

非伝統的な金融政策の成功及び最近の大きな金融規制の格上げにも拘わらず、我々は依然としてグローバル経済における不均衡に対処する術(すべ)を持っておらず、それが意味するのは将来の新たな


新しい種類の金融システム?

親愛なる読者諸君には、FTの記事へ過度に注意を払わないようにして欲しい。 彼等のニュースの内容は充実したものである。 しかし、この社説は不明瞭なのだ。 ロビン・ハーディングは続ける:

5年前、リーマン・ブラザースが崩壊した後、新しい種類の国際金融システムに対する欲求及び勢いが存在したのである。 その欲求は消え去ってしまったのだが、- 我々は必死にそれを取り戻す必要があるのだ。


どんな「新しい種類の国際金融システム」を彼は提案しているのか?。

...IMF のリソースを強化し、必要が生じた時に新興市場が頼れる様に彼等へ投票権を手渡す事...

準備資産として国際的なシステムが一国の通貨 - 米国のドル - へ頼っている時に、信頼性のある後ろ盾というものは不可能である。 FRB だけがドルを作る事ができるのだ。 現在の新興市場における問題が多過ぎるドルであったとしてさえ、- 米国に比べて世界経済が成長する為に不足という現象のみが悪化するばかりであり、- 危機の中でそれらが十分であった事は一度も無いのだ。

答えは、1930年代にジョン・メイナード・ケインズが提案したものだ:国際的準備資産、それに対する国家の通貨の価格を決める為のルール、そして恒常的な黒字を抱える国に対する罰則である。 金融危機の後、国連から、経済学者のジョセフ・スティグリッツから、そして中国人民銀行の総裁からさえ、これらの線に沿った提案の洪水があった。 その何れも実現に向かわなかったのである。


その計画とは、それを必要としていると思われる如何なる国へも IMF が手渡せるよう多くの「国際的な準備資産」を備え...同基金をある種の超中央銀行へと転換する事である。 読者諸君には、過剰に質問してもらう必要も無い。 正に我々は、それを簡潔な言葉に置き換えようとしているのだ。 世界のマネー・システムは、ペーパー・マネーに基づき、グローバルな官僚達によって管理される事になるのだ。 それが絶望的なものであるという事を、貴方達は直ちに理解する。 スーパー・エコノミスト達によって運営されるスーパー中央銀行?。 彼等が世界の金融システム全体を吹き飛ばすまで、どの程度の時間を要するのだろう?。

しかし、それについては心配しないでくれ。 何れにしても、システムは吹き飛ばされるのだ。

如何なるペーパー・マネー・システムも与信サイクル全体を生き延びた事は一度も無い。 何故?。 ペーパー・マネー(信用に裏付けされた、原始的な形)は無制限であり...規律が無いのだから。 それが、- そして国際的な金融の改革の欠如が - 現在非常に多くのバブルが起きている理由なのだ。 金利が低下している時 - 人為的に低い水準まで中央銀行によって押し下げられる事が少なく無く、極端に長い期間その水準に保持される - 信用は拡大し、債務の負担は増大するのである。 それは過去30年間起きていた。 そして今、経済全体が、恐らく存続する事の不可能な何かに依存しているのだ。 債務は永遠に増大する事ができないのである。

金利が低いままである限り、システムは一緒に保持される。 しかし、債務の量が増えるにつれ、その質は低下するのだ。 債権者のバランス・シートは益々弱くなる。 最終的に、クレジット市場は方向を変える。 金利は再び上昇し始める。 そして、全てのその債務の重みは雪崩の様に崩壊するのだ。 そして、それが始まる時、それを止めるものは何も無いのである。

貴方達にできるのは、貴方達がその手に乗らない事を確実にするという事だけなのだ!。




本日も、グローバルな経済/金融の構造的問題に焦点を当てる事となってしまいました。

上の記事中に示される「暴落警報」というのは、先日の稿(「ミスター市場は見ている」)で引用した Acting Man の記事で述べられている警告です。


FTは経済/金融分野に大きな影響力を持つメディアなので、先般の記事(「揺らぐ基軸」)が様々な議論を呼び起こしているようです。

最近この種の論議が増えている(少なくとも欧米では)と感じるのですが、影響力の大きいメディアが報道する場合、その背後に作為的な意図が隠されているのではないかとも疑いたくなってしまうのです。


次回に続く...



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未だ勝利を宣するなかれ

本日も、世界経済の現状を歴史的な時間軸上で大局的に眺めてみるのです。



The Post-Crisis Global Economy in Three Words
三つの言葉で表す危機後の世界経済


パリ - アメリカの投資銀行リーマン・ブラザースの破綻が金融の騒乱を引き起こし、大恐慌の始まりを記してから5年が経過した。 埃(ほこり)が完全に着床した訳では無いものの、これまでに我々が学んだ事 - そして未だ行われねばならない事を3つの言葉がまとめている。

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思い浮かぶ最初の言葉は復元力である。 5年前、多くの者が1930年代の大恐慌の繰り返しを恐れた。 実際、バリー・アイケングリーン及びケビン・オルークが示した様に、2008年‐2009年における世界の工業生産の崩壊当初は、1929年‐1930年のそれと非常に重なったのである。 世界の貿易量及び株式指標の落ち込みは、より急速でさえあったのだ。

幸いにも、その後の歴史的な道筋は分かれた。 1929年の暴落の5年後、世界は依然として不況の中にあり、貿易は急激に縮小した。 今日(こんにち)、依然として米国は第二次世界大戦以降最悪の雇用不況を通過中であり、欧州の GDP は危機以前の水準に戻っていないが、世界の生産量は2008年以降15%成長し、世界の貿易は12%以上アップしたのである。

今回はグローバルな金融危機が無かったという事が主な理由となり、世界は大恐慌IIを避けたのだ。 米国と欧州の金融システムがほぼ完全に統合されていた事が理由で、欧州を汚染した米国の危機というのが2008年に起きた事だったのである。 しかし世界の他の地域の多くは免れたのだ。 中国や他の新興国は、彼等の輸出に影響を与えた厳しい需要ショックに見舞われたのであり、金融の混乱によるものでは無かった。 反対に、中国他の国々が保有する米国政府債券の価値は、金利低下への反応として上がったのだ。

もう一つのリバウンドの理由は、G-20 各国によって2009年に設計され、時宜を得た対応であった。 初めて、発展途上国と先進国が協調されたリフレ的努力に参加し、彼等の取引相手となる先進国と一緒に、保護貿易主義へ反対する事を約束したのである。

回復は直ぐに、グローバル経済が二つ以上のエンジンを有している事を実証した。 これは米国経済に治癒する時間を与え、一般化された下落基調を引き起こす事無く欧州が自らの危機を経験する事さえ可能にしたのである。

過去5年間を特徴付ける第2の言葉は加速である。 2008年には、新興国及び発展途上国の台頭が世界経済地図を描き直している事を誰もが知っていた。 しかし、これは斬新的で、長期的な傾向になると考えられたのだ。 現実的には、10年又は20年を要すると想定されていたものは、僅か5年を要しただけだったのである。

簡単な統計が要点を示している:2007年に、先進国はG-20の GDP 合計のほぼ4分の3を占めていた。 2012年までに、彼等が占める割合は63%へ低下したのだ。 成長の違いと高価格な原油及び原材料の組み合わせは、世界の収入の大規模な移動という結果をもたらしたのである。

更に、全ての先進国は彼等の公的財政の急速な悪化を経験したのだ。 10年前ならば、公的債務危機は発展途上国を苦しめる伝染病と考えられたのだが、その病気は今や先進国経済の呪いであるのだ。 国際通貨基金によると、2012年末の平均的な債務/GDP 比は先進国において110%であったが、新興国においては僅か35%であり、低所得国においては42%であった。

勿論、その様な統計情報は誤解を招く可能性がある。 依然として米国及び欧州は、機械、建物、そして数十年又は数百年にさえ亘って築かれた公共インフラという - 膨大な資本のストックを享受しているのだ。 更に、無形資本も増々重要になっている:研究開発支出は投資として分類されるべきだと認識した後、米国当局は最近 GDP を$4000億上方修正したのだ。 新興国は、より速く成長するであろうが、彼等の一人当たりの社会資本は依然として先進国のそれに一致していないのである(事実、これこそ発展が主に意味するものなのだ)。

それにも拘わらず、世界政治というのは、相対所得の変化及び富裕な国の公的財政の貧相な状態が重要になる場なのである。 米国及び欧州は、エジプトの軍事指導者へ影響を与えるべく同国への金融支援を引き上げると脅した際、サウジ・アラビア及び他の湾岸諸国の方がもっと奥深いポケットを有している為、これらの国々の方がもっと説得力を持つという事へ直ぐに気付いたのだ。

これは過去5年間の第3の言葉に繋がる:リバランシング。 グローバル化1.0は、米国の消費者及び中国の生産者を中心に構築された。 次のフェーズは、世界中の消費者及び生産者を中心として構築されるべきである。

ブルッキングス研究所のホミ・カーラス及びジオッフリー・ガーツの推定によると、現在1日当たり$10-100を支出している人々は、2003年におけるそれよりも7億人多い。 更に、彼等がグローバル中流層と呼ぶ人々は今後10年間で更に13億人増えるのである。 従って、新興国及び発展途上国における消費牽引型の成長へ向かう大きなリバランシングについての明らかな潜在性があるのだ。

この新たなグローバル化のフェーズは、世界経済にとっての大きな利益を予兆している。 過去20年間の少し一方的な貿易パターンの代わりに、それは発展途上国の一般家庭にとって、より大きく豊かである事と、先進国経済における更に多くの生産の機会を意味するのだ。 同時に、消費の習慣があらゆる場所を変える事となるであろう:中流層の大きさが3倍となり、同じ様なエネルギー - 及び炭素 - に依存する消費パターンに頼り続ける事はできないのである。

しかし、我々は未だそこへ至っていない。 部分的には政府の刺激策に負っており、2008年以降の中国の成長は消費よりも投資によって多く駆動されてきたのであり、それは同国経済においてもっと必要とされる需要のリバランシングを妨げるものなのだ。 経済パフォーマンスは、部分的に人造的な投資ブームによって支えられてきたのであり、それは今や先細りつつあって - 十分に速い成長を維持する中国の能力についての懸念を高めているのである。 そして、需要は依然としてエネルギー - 及び炭素 - へ依存し過ぎているのだ。 そして移行は、これから実行されるというままであり、幾つかの新興国における外国為替の騒乱は、それがデリケートなものとして拘束されている事を示しているのである。

2008年以降に世界経済が示した復元力は喜ぶべき理由であり、経済的且つ金融的な強度のグローバルなバランスの変化の加速は反響する理由なのである。 しかし、需要のリバランシングの課題は、(量的及び質的の何れの意味においても)大きなものとして残っている。 それを満たす方向への展開が進むまで、勝利を主張するのは早過ぎるであろう。



本稿で最近整理していた他の記事とは少し趣が異なり、上の文章ではリーマン・ショック後の5年間の状態遷移状況を概ね肯定的に評価しています。 しかし、文章末尾で「勝利を主張するのは早過ぎるであろう」と示唆している部分こそ、本稿で最近整理しているグローバル経済の新たな転換局面に関係しているのだと思うのです。

前回の稿(「グローバル化の不整合」)で示された様に、新興国は先進国が金融危機後に実施した施策の恩恵/影響を受けた過去5年間に、自国の構造的課題を解決する事無くインフラ投資/資源バブルに浮かれてしまったのですよ。 同じく E-Pritchard が指摘する様に、FRB の金融政策によって大きく揺さぶられる構造の新興国経済は、同中央銀行の緩和策の縮小によって厳しい局面を迎えつつあるのです。

この様にグローバルなマネーの奔流を各国の政府/中央銀行でも制御不能な状況は、米ドルを基軸通貨とする現在の金融システムの制度的限界(欠陥)であるという指摘を、前々回の稿(「揺らぐ基軸」)でも確認しました。

さてさて、新たな局面を迎えつつあるグローバル経済は、どのような方向へ向かうのでしょうか?。


次回に続く...



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グローバル化の不整合

ここ数日本稿で整理した記事は、何れも経済/金融のグローバル化が生み出した構造的な問題を現行制度の下で解決する事が難しいという状況を説明してくれているようです。

前回の稿の末尾にリンクした Telegraph の記事も気になったので、とりあえず整理しておきましょう。



Emerging market rout is too big for the Fed to ignore
新興市場の総崩れは、FRB にとって無視するには大き過ぎる


米国の連銀は、アジア、ラテン・アメリカ、アフリカそして東欧へ、死に陥れと語った。

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Children play with a giant globe in Rio de Janeiro, Brazil

これは、容易ならぬ政策の誤りの要因を孕(はら)んでいる:最善の場合でも、1998年秋の劇的な出来事の繰り返しとなり;最悪の場合には、全面的な大失策となって長期の低迷の第2段階へと滑り落ちる事になる。

今や新興市場は世界経済を引きずり倒すのに十分な程大きいのである。 インドネシア、インド、ウクライナ、ブラジル、トルコ、ベネズエラ、南アフリカ、ロシア、タイそしてカザフスタンは、彼等の通貨を支えようと試みており、その影響は更に高い借り入れコストとして先進国世界へ跳ね返っているのだ。 中国でさえ、$200億の米国債を売却せざるを得ないと感じたのである。

「彼等は、米国及び欧州の債券を売却する事で外貨準備を取り崩しており、自己増強的なフィードバック・ループへと繋がっているのです」と、BNY メロンのサイモン・デリックは語った。

新興市場は$9兆の外貨準備を保有しているので、彼等は嘗てよりも弾力的であると我々は聞かされている。 しかし、為替レートを守る為にその宝を使用する事は全て、金融引き締めを引き起こす事となり、従って既にトラブルに見舞われている国々に対して収縮的なショックを与えるのだ。

我々は又、最近の彼等は自国通貨で借り入れており、1980年初頭や1990年代半ばの大混乱を引き起こしたドル不足の類に対して免疫だとも聞かされている。 これは真実であるが、両刃なのである。 インド、ブラジルその他の国々は確実に市場との闘いを止めるよう誘惑され、通貨が下落し、云わば貴方達の年金基金という様な - 外国人に痛みを与えるままに任せるのだ。

BNP パリバのミルザ・バイグは、擬似的なペッグを守る事に効果は無いと呼び掛けながら、通貨の切り下げを受け入れるよう彼等に助言している。 「闘う為のコストはスパイラル状に制御を失っているのです」と、彼は語った。

外国人達は、マレーシアで90%、タイで81%、韓国で79%そしてインドで74%の通貨リスクを負っていると、バイグ氏は語った。 そして、彼等はヘアーカットを受けるのだ。 これらの国々がその道筋を取る事で、彼等は西欧にデフレ的な貿易の衝撃を与えるであろう。 ユーロ圏は、それを扱うのに不適当な状況にあるのだ。 英国も然り。

我々は完全に未知の海域にいるのだ。 ボルカ―議長の FRB による引き締めがラテン・アメリカを崩壊させた1980年代初期、新興市場は全世界の GDP の15%未満であったのだ。 それは西欧の銀行にとって不愉快なエピソードであったが、容易に封じ込められたのである。 中国はその当時自給自足状態であり、世界から閉ざされていた。 ソビエト連邦とその衛星諸国は、閉鎖されたシステムを形成したのだ。

その構図は、元共産主義者達がパーティーに参加した1990年代半ばまでに既に非常に違ったものとなった。 その時までに、新興市場は全世界の GDP の3分の1へと成長しており、1998年8月のロシアのデフォルトの後に FRB 議長のアラン・グリーンスパンが発見した様に、船を揺らすには十分な大きさだったのである。

グリーンスパン氏は、その月のジャクソン・ホールでのコンクラーベにおいて、対応の必要性について地区連銀総裁達に十分議論させる程、十分に懸念する様になったのだ。 FRB は9月に金利を引き下げたが、それは東アジア全域で通貨が崩壊し、欧州におけるEMU以前の「収束遊び」が粗っぽく反転した事で制御不能となった危機を止めるには十分でなかった。

ニューヨーク連銀は1998年10月に介入する事を余儀無くされ、ヘッジ・ファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメントを救済したのである。 FRB は10月及び11月に再び金利を引き下げた。 「システミックな崩壊の可能性が十分に大きかったのであり、何もしない事について我々に快しとさせなかったのです。」

その当時でも関係する金額が高かったのであれば、現在それらは更に高くなっているのである。 IMF のデータによると、新興市場は世界経済の半分なのである。 もはや「力関係」は1:2で無く、それは1:1なのである。 経済革命が起こっていたのだと主張し、ブームの最中にBRICS 及びミニ-BRICS を恋した者達は全く正しかったのである。

しかし、我々皆が今回のジャクソン・ホールから聞いたのは、新興市場の潰走が FRB の問題では無いという否定的なコメントだったのである。 「他の国々は、それを単純に現実として捉え、私達に合せる必要があるのです」と、アトランタ連銀総裁のデニス・ロックハートは語った。 「金融的な波及事象から国々を隔離する絶妙な処置というものは無いのです」と、ニューヨーク連銀のテレンス・チェッキは語った。

FRB 高官達の話は、危険な程に無頓着であると私には響いた。 グローバルな相互作用に完全に注意する事に失敗した「閉鎖的マクロ経済モデル」の結果として、同行は過去6年間に一連の間違いを犯したのである。 同行は、リーマン崩壊以前にブレーキを故障させる事が如何にドルの緊急出動の引き金となり、大災害に着火していたのかという事を予測するのに失敗したのである。 同行は、後にタカ派的な発言で欧州通貨同盟の債務危機の痙攣を引き起こしたという事において重要な役割を演じたのであり、毎回のように後で前言の撤回を余儀無くされたのである。

「大きなリスクは、FRB の先細り措置が米ドルへの殺到の口火を切るというものです。 それは、FRB が自己満足である事を止める時です」と、ダンスケ・バンクのラース・クリステンセンは語った。 「世界中の中央銀行は、全てのこの刺激策に併せて彼等が実行すべきでない何かを実行してきたのだと考えており、彼等はそれを可能な限り迅速に巻き戻したいと願っているのです。 しかし危険なのは、彼等がやり過ぎて1937年の様な再発の引き金を引く事なのです。」

FRB 自身の手は殆どきれいでないのであるから、彼等は新興市場に対する注意義務を持っているのだ。 ゼロ金利及び量的緩和は、これらの国々へ洪水として流れ込んだドルの流動性の原因だったのである。 それは、2008年以降に新興市場への正味の資本流入が$4兆から$8兆へと倍増した理由であり、その多くは後のサイクルの奔出において無駄にされたのだ。

そう、中国、ブラジル、インドその他は、流動性の浴槽を下手に取り扱ったのだ。 彼等は、もっと価値のある成長を生み出す事無く、与信に飛びついたのである。 中国の例では、融資の伸びに対する経済的なリターンが0.85という割合から0.17へ崩壊したのである。 減少しているリターンは殆ど何も無い状態へと縮小したのだ。

BRICS クラブが労働者の競争力を失った為、信用ブームは内在する腐食を偽装したのである。 それぞれの事例は異なるものの、ブラジル程、現実から非常に離れてしまった神話は無い。 同国は、ビジネスの容易さに関する世界銀行のランキングで惨めにも130番目という状態であり、工業生産は依然としてリーマン前を3%下回る水準であり、鉄鉱石及びコモディティの輸出に依存する方法を失ってしまったのである。

新興国における「現実はパンフレットよりも良く無い」と旅行者達は発見したのであり、今や彼等は自国の方へ釘付けになっているのだと、シティグループのマット・キングが簡潔な書簡の中で述べている。 「一斉に自宅へ返らないでくれ。 出口は小さいのだ」と、彼は警告した。

これらの国々の失敗について米国を非難する事はできず、更には、ベン・バーナンキ及び彼の後継者は依然としてその結果と共に暮らしていかねばならないのである。 グローバル化が FRB を陥れたのだ。 好きであれ嫌いであれ、FRB は世界の金融のスーパー・パワーなのである。

これまで我々が目にしてきた新興市場からのマネーの脱出は、この出来事が誤って処置された場合に起きるかもしれないものと比べようが無い。 西側諸国によるシリアへのミサイル攻撃に向かう急速なエスカレーションは、バレル当たり$150へのクルード・オイル価格の急騰がそれ自体の連鎖反応を引き起こすという話と共に、事態を先へと進めているのだ。

全世界の流動性を引き上げる事になるだろうと FRB が主張している中で、世界の他の国々は「我々に合せる」必要があると彼等が本当に考えているのであれば、尚も再び、それは非常に失礼な驚きとなるかもしれない。



多くの新興国で現在起きている通貨の暴落/資本の逃避という事態に対し、余りにも無頓着な FRB の姿勢に憤る E-Pritchrd の気持ちも理解できますが、前回の稿(「揺らぐ基軸」)で掲載した文中にも示されている様に、「他の国々の事を念頭に置いて FRB が政策を定める(それは違法となる)事を期待するのは絶望的である」というエレーヌ・レイ教授の醒めた見解こそが、グローバル化した経済/金融の実態と整合していない現行制度の限界だと思うのです。

この様に先進国/新興国の間の利害が複雑に構成されている問題については、G20 の様な会議の場で議論しようとも解決できないと思うのですよ。


次回に続く...



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揺らぐ基軸

(追記29日08:50)
FRB の緩和策縮小に対する思惑から、インド、インドネシア、ブラジル等の新興国の通貨が急落し続けていますが、世界の為替市場は更に不安定なものとなりつつあるようです。

ロイター より
ドル全面高、シリア攻撃を懸念した逃避買いで=NY市場
 [ニューヨーク 28日 ロイター] - 28日終盤のニューヨーク外為市場では、西側諸国がシリア攻撃に踏み切る可能性を見据え、安全通貨としてドルが買われ、幅広い通貨に対して急伸した。一部の新興国通貨は過去最安値を付けた。イント)の約2倍。

前回の稿(「好景気のブックエンド」)では第2次世界大戦を挟む長期的な金利の変動傾向を整理しましたが、同大戦後に米ドルへ基軸通貨の地位を与えしめた現在のブレトン・ウッズ体制は限界に近づきつつあるのかもしれません。



Central bankers have given up on fixing global finance
中央銀行家達はグローバル金融の修正を諦めた



我々は新しい種類の金融システムへの欲求を回復する必要があると、ロビン・ハーディングは述べている。


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世界は際限の無いバブル、金融危機そして通貨の崩壊という暗い運命を待っている。 それに慣れよう。 少なくとも、それは - ワイオミング州ジャクソン・ホールでのカンザスシティ連銀の年次総会の為に自らのぐらつく権威の下で集まった - 世界中の中央銀行家達が期待しているものである様だ。

国際金融システムに関する彼等の全ての議論は、運命論者の現状維持の受諾によって記録された。 非伝統的な金融政策の成功及び最近の大きな金融規制の格上げにも拘わらず、我々は依然としてグローバル経済における不均衡に対処する術(すべ)を持っておらず、それは将来の新たな危機を意味するのである。

実際、問題は悪化しているのだ。 ブレトン・ウッズの古い固定相場制度の1971年における崩壊以来、世界は国際金融の「トリレンマ」に慣れるようになったのである:自由な資本の流れ、固定された為替レートそして独立した金融政策を同時に持つ事の不可能性。 殆どの国々は自国の金融政策及び変動相場の管理を強力に支持したのだ。

しかし、- 米国の連銀の金融政策で駆動された - 信用と資本フローは変動相場制でさえ自国の運命の制御を国家に与えない事を意味すると、ジャクソン・ホールで発表された素晴らしい新たな論文の中でロンドン・ビジネス・スクールのエレーヌ・レイ教授が主張したのである。 真実として、トリレンマはジレンマなのである。 選択肢はこれだ:資本規制を課す、又は FRB に貴方の国の経済を運営させる。

自らの毎月$850億の資産購入を先細らせる事を FRB が熟慮している事により、- 為替レートを引き下げつつ - 特に新興世界から資本が逃避している時において、ジャクソン・ホールにおけるこの暗い予測の分析が肩を窄(すぼ)めながら受け入れられた事は印象的であった。 最低でも、それは、より高いインフレと、より高い金利を伴って発展途上国を脅かすのである;インドやインドネシアの様に資本流入を少し楽しみ過ぎた国々は、何かしらもっと酷く苦しめられるかもしれない。

しかし全ての議論は、如何に個々の国々が出入りする資本の流れの影響を減衰する事ができるかというものであった。 他の国々の事を念頭に置いて FRB が政策を定める(それは違法となる)事を期待するのは絶望的であるというのが、レイ教授自身の結論であった。 彼女は、目標を定めた資本規制、厳しい銀行規制、そして与信ブームを冷ます為の国内政策を推奨したのだ。

実際には、これが上手く機能する事は決して無いであろう。 それは、常に変化する資本フローに対する訓練で反応する事を世界中の全ての国に求めるのである。 それは、世界中の誰もが自分達の手を一時間毎に洗い、決して家から出ない場合にのみ、我々は通常の風邪を治す事ができると言う様なものである。 もしそれが機能したとしても、この様に行動している国々に対し、必要となる政策のボラティリティは依然として苦しい経済コストを課す事になるのだ。

しかし、それが唯一の選択肢ではない。 5年前、リーマン・ブラザースが崩壊した後、新しい種類の国際金融システムに対する欲求及び勢いが存在したのである。 その欲求は消え去ってしまったのだが、- 我々は必死にそれを取り戻す必要があるのだ。

国際金融システムにおける欠陥は、古く深遠であり、それらを取り巻く如何なる努力も打ち倒すのである。 それらの内で最も重要なのは、経常収支黒字を抱える如何なる国にもその削減を強制するメカニズムが欠けている事である。 従って、- 米国へ巨大な資本の洪水を送り込み、金融危機の創出を手助けした中国の黒字の様な - 巨大な不均衡が発達し、しつこく繰り返されてしまうのだ。

実際、投資家達が貴方の国から資本を引き揚げようと決定した場合、頼るべき国際的な中央銀行は無いのであるから、黒字を抱える事は賢明なのである。 国際通貨基金というものはあるが、- 1997年にアジア諸国がそれを試み、その体験から、同じ事の繰り返しを避けるべく、それ以来彼等は非常に喜んで外国通貨準備金を積み上げてきたのだ。

準備資産として国際的なシステムが一国の通貨 - 米国のドル - へ頼っている時に、信頼性のある後ろ盾というものは不可能である。 FRB だけがドルを作る事ができるのだ。 現在の新興市場における問題が多過ぎるドルであったとしてさえ、- 米国に比べて世界経済が成長する為に不足という現象のみが悪化するばかりであり、- 危機の中でそれらが十分であった事は一度も無いのだ。

答えは、1930年代にジョン・メイナード・ケインズが提案したものだ:国際的準備資産、それに対する国家の通貨の価格を決める為のルール、そして恒常的な黒字を抱える国に対する罰則である。 金融危機の後、国連から、経済学者のジョセフ・スティグリッツから、そして中国人民銀行の総裁からさえ、これらの線に沿った提案の洪水があった。 その何れも実現に向かわなかったのである。
 
その目標に向かう基本的な第一歩 - IMF のリソースを強化し、必要が生じた時に新興市場が頼れる様に彼等へ投票権を手渡す事 - は、米国議会の中で止まってしまった。

しかし改革の可能性は、過去数十年間におけるそれよりも大きいのだ。 一時的でしかないが - 危機及び不況は全世界的な不均衡を減少させた。 そして、例えば中国は、もはや同国の黒字を減らす為の大きな調整を即座に行う必要がなくなってしまったのだ。 金融危機は又、世界の基軸通貨を供給する事の不利についての生々しい教訓を与えたのである。 新興市場は、米国の金融政策を輸入する事の危険を思い起こしつつあるのだ。

突然の革命よりも斬新的な変化の方がより望ましいが、- 進展を生み出す時は今なのだ。 金本位制の終焉以来、世界にとって安定した国際金融システムを中々得られなかった。 しかし、それを創り出す第一の条件は試みる野心である。



上の記事中には「他の国々の事を念頭に置いて FRB が政策を定める(それは違法となる)事を期待するのは絶望的である」というレイ教授の主張が示されていますが、一方では新興国側の混乱も無視できない状況となりつつあるのです。

Emerging market rout is too big for the Fed to ignore
(新興市場の総崩れは、FRB にとって無視するには大き過ぎる)


次回に続く...

追記:
上に引用した FT の記事の和訳文が、(今回は早々に)JBpress に掲載されていました。

国際金融システムの修復を断念した中央銀行

いつもの様に、職業的翻訳家の秀逸な文章と、(あくまで原文の構成/用語を正確に訳す事に拘る)私の無機的な翻訳との違いを確認できるのです。

(FTの元記事を読むには、同サイトにアカウントを登録する必要があります。)



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